千年の祈り

story

父は、突然やってきた。遥か遠い北京から、娘の住むアメリカへ──。



 妻に先立たれ、高齢者向けの料理教室に通うなど、引退生活を楽しむシー氏(ヘンリー・オー)のただ一つの気がかりは、離婚して一人で暮らす娘イーラン(フェイ・ユー)のことだった。

 到着早々、シー氏はイーランの生活に面食らう。朝食も食べずに出勤し、帰宅も夜遅い。部屋は殺風景で、中国の華やかな飾り付けは何一つない。シー氏はさっそく中華鍋を購入し、腕をふるって夕食を作り、イーランの帰りを待つ。しかし娘は、お愛想程度に箸をつけるだけで、父の話にも笑顔すら返さない。幸せではないのかと問いかける父に、イーランは「お父さんも昔は無口だったわ。幸せじゃなかったの?」と切り返すのだった。

 シー氏は、近隣に住む人たちと、積極的に交流する。「ロケット工学者だった」と現役時代の話をすると、誰もが好意的に接してくれる。宗教に勧誘しようとする若い青年たちには、マルクスを持ち出して逆に共産主義を説こうと試みる。やがてシー氏は、公園のベンチで出会う裕福なイラン人マダムとの会話を楽しむようになる。会話と言っても、カタコトの英語に、互いには分からない中国語とペルシャ語が混じり、あとはジェスチャーと表情。それでも、父との夕食すらも避けるようになった娘に比べれば、何倍も心が通じ合うのだった。

 新聞を読み、英語を学び、シー氏のアメリカ生活は、それなりに充実していた。しかし、シー氏の最大の目的は、娘の離婚の原因を探り、手遅れにならないうちに再婚を勧めることだった。ある日、思い切って離婚の真相を問いただしたシー氏を、イーランは「夫婦の舟が沈んだだけ。話すことはないわ」と不機嫌に突っぱねる。

 「私は、いい父親ではない」イラン人のマダムには、どんなことでも素直に話せるシー氏。医者として成功している息子との暮らしを幸せそうに語っていたマダムもまた、イランの戦争で娘を亡くした辛い体験をシー氏に打ち明ける。ところが、シー氏の心の支えだったマダムが、突然老人ホームに入ってしまう。孫が生まれて喜んでいた矢先、息子夫婦が孫の世話をさせたくないと、彼女をホームに入れてしまったのだ。

 深夜の外出や外泊が続くイーランに、心を痛めるシー氏。ある夜、最終バスに乗っていなかったイーランを家の前で待っていると、彼女は見知らぬロシア人男性の車で帰ってくる。「送ってきた男は誰だ?」「監視しているの?」言い争いの果てに、イーランはその男との関係がもとで、離婚したのだと知るシー氏。娘が夫に捨てられた犠牲者だとばかり思っていたシー氏には、それは思いがけない現実だった。

 「いつまでこっちにいるつもり? アメリカを見に来たんでしょ。冬が来る前にツアーに参加したら?」「見たかったのは、おまえが幸せに暮らす国だ」互いの幸せを願っていることは間違いないのに、どこまでも平行線をたどる父と娘。イーランには、どうしても許せないことがあった。それは、父がつき通した一つの嘘。「いつ嘘をやめるの? 工学者じゃなかったでしょ。お母さんも私も知っていた。皆、あの女の人のことも知っていたわ」

 打ちひしがれる父を見て、言葉を失くす娘。「おまえは事実を言った。だが、説明させてくれ」そして、父の告白が始まった。時代に翻弄され、家族を守るために夢を諦めながらも、懸命に歩んできた人生の最後に、何一つ包み隠さず、初めて娘と向き合おうとする父の告白が──。

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監督:ウェイン・ワン / 原作・脚本:イーユン・リー / 出演:ヘンリー・オー フェイ・ユー / 83分 / 日・米合作 / 35mm / ビスタ / 提供・配給:東京テアトル
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